ポケットの中庭

ゆっくり ゆっくりと 綴っています

梅雨明けから立秋の頃のこと なつ、おしむ

なつ、おしむ

 

せみのこえは なつをよぶ
こっちだよ こっちだよ
こっちをむいてよ
ながかったとんねるをぬけて
やっとあえると
むねをおどらせるせみは
うれしそうに なつをよぶ

 

こっちだよ

こっちだよ

こっちをむいてよ

 

だけれど そのこえはとどかないのか
なつのすがたは うしろむき
ちっとも こっちをみてはくれない

 

あきらめずにせみは よびつづける
こっちだよ こっちだよ
こっちをむいてよ
あさもはやくから
ねっきあふれるひるまをこえて
ひのくれるときまで
せみはよびつづける

 

こっちだよ

こっちだよ

こっちをむいてよ

 

だけれど かなしいかな
ふりむくのは あつさばかり
かんじんのなつは せなかをみせるばかり

 

あきらめずにせみは よびつづける
こっちだよ こっちだよ
こっちをむいてよ
じりじりおひさまてりつけるひにも
どんよりくもにおおわれるひにも
たしょうのあめならめげることなく
せみはよびつづける

 

こっちだよ

こっちだよ

こっちをむいてよ

 

それなのになつは ふりむいてくれない
それどころか そのせなかはどんどんちいさくなって
しまいには みえなくなって・・・

 

それでも せみはなきつづける
いっしょうをかけて
こっちだよ こっちだよと